私は、こんな学園祭を想像していたんです。
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「結構よく撮れてるよねー」
私は、友達と、彼女の学校の学園祭に行った時の写真を見ながら、ファーストフード店でわいわいと話していた。楽しい思い出を振り返りながら、うきうきと写真を見ていたら何枚目かの写真に、ふと目が止まる。
私と友達と3人で撮ってもらった写真の隅に、大荷物を抱えて忙しそうにしている、コーヒーのような色の肌をしたスキンヘッドの男の子が写っていた。その目立つ風貌にまず私は目を奪われたのだが、ピントの合っていないそれからも彼の強面でいて、それでもやけに優しそうな印象を感じた。
これ、なんていう子? と、私はなぜだか友人に尋ねる事ができず、それらの写真を大事に鞄にしまった。
それからも私は思い出したように時折その写真を見る。
名前も知らない彼を、「コーヒー色をした、学園祭の王子様」と心の中で呼びながら。
今年も私は彼女の学校の学園祭に呼ばれた。
勿論、私はあの学園祭の王子様に会えるだろうかと期待をしてしまう。
名前は知らないけれど、あの目立つ風貌だ。きっと、見つかる。
そう思いながらも時間はどんどん過ぎて、午後になる。友達は自分のブースに呼ばれてしまった。
喫茶店やら屋台のヤキソバやら、あれこれとつまみながらうろうろしていた私はだんだんとお腹一杯になってしまう。なのに、王子様は見つからない。そんなわけないのに、彼の風貌のイメージから私はたこ焼き屋に行ってたこ焼きを買ってみたが、やはりそこにも彼はいなかった。
ああ、もうお腹一杯で食べられない。
たこ焼きのパックを抱えながら往来で思わず立ちすくんでしまった。
すると、後ろから忙しげに走ってきた人の持っていた何かが私にぶつかる。
それほどの衝撃ではないのだけれど、ぼんやりしていた私は一瞬バランスを崩してしまった。
「うわっ、すまね!」
走ってきた彼は、私が取り落としそうになったたこ焼きのパックをあわてて持って、申し訳なさそうに私を見た。
私は息を飲む。
それは、私の、学園祭の王子様だったからだ。
彼は去年のあの写真のように、今年もなにやら忙しそうだ。あいかわらずのスキンヘッド。手に持っているのは沢山のゴミ袋。
心なしか、写真よりも大人っぽく凛々しくなっているような気がする。きっと初めて見たら、なんだか怖い人だと思ってしまうかもしれないけれど、ずっと写真で見ていた私は、懐かしい人にやっと会えたような気がして不思議。どんな子なんだろう、本当は結構こわいのかな? それとも優しい子? 女の子に人気あるのかな……なんて、ずっといろんな想像をしていた。
「……おい、どうかした?」
彼は驚いたような不思議そうな顔をして私を見る。
「あっ、ううん、なんでもない」
そう言った私の言葉の後に、不意に彼のお腹が鳴る音が、ものすごいタイミングの良さで聞こえた。
彼は照れくさそうにして、一度地面に置いたゴミ袋をまた手に持とうとする。
「あのっ」
私は声を出した。
「よかったら、これ、食べない? なんだかお腹一杯で食べ切れなくて」
少々冷めたたこ焼きを、私は彼に差し出した。彼はまた驚いたような顔をするけれど、その口元は嬉しそうにほころぶ。
「ええ?マジ?俺、忙しくて今朝からまだ何も食ってなくてさ」
彼は私の差し出したパックから、遠慮がちにたこ焼きを一つ取ってぱくりと一口で食べる。
もっと食べて、と私が差し出すと、彼は美味しそうにぱくぱくと全部食べてしまった。
本当に美味しそうに食べるなあと、私は嬉しくなる。
食べ終わった彼は、はっとまた一瞬照れくさそうな顔をするのだが、ゴミ袋を抱えると、こう言った。
「俺、テニス部であっちの校舎の一階でブース出してんだけど、よかったら後で来いよ。コーヒーくらいおごってやるから」
そう言うと、沢山のゴミ袋を抱えた彼はまた走り出した。
あの写真に写っていた姿のように。
王子様の名前、後で聞きに行かなきゃなーと思いながら、私は彼の後姿をじっと見送った。
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しかし、ジャッカルが攻略対象じゃないなんて!
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「結構よく撮れてるよねー」
私は、友達と、彼女の学校の学園祭に行った時の写真を見ながら、ファーストフード店でわいわいと話していた。楽しい思い出を振り返りながら、うきうきと写真を見ていたら何枚目かの写真に、ふと目が止まる。
私と友達と3人で撮ってもらった写真の隅に、大荷物を抱えて忙しそうにしている、コーヒーのような色の肌をしたスキンヘッドの男の子が写っていた。その目立つ風貌にまず私は目を奪われたのだが、ピントの合っていないそれからも彼の強面でいて、それでもやけに優しそうな印象を感じた。
これ、なんていう子? と、私はなぜだか友人に尋ねる事ができず、それらの写真を大事に鞄にしまった。
それからも私は思い出したように時折その写真を見る。
名前も知らない彼を、「コーヒー色をした、学園祭の王子様」と心の中で呼びながら。
今年も私は彼女の学校の学園祭に呼ばれた。
勿論、私はあの学園祭の王子様に会えるだろうかと期待をしてしまう。
名前は知らないけれど、あの目立つ風貌だ。きっと、見つかる。
そう思いながらも時間はどんどん過ぎて、午後になる。友達は自分のブースに呼ばれてしまった。
喫茶店やら屋台のヤキソバやら、あれこれとつまみながらうろうろしていた私はだんだんとお腹一杯になってしまう。なのに、王子様は見つからない。そんなわけないのに、彼の風貌のイメージから私はたこ焼き屋に行ってたこ焼きを買ってみたが、やはりそこにも彼はいなかった。
ああ、もうお腹一杯で食べられない。
たこ焼きのパックを抱えながら往来で思わず立ちすくんでしまった。
すると、後ろから忙しげに走ってきた人の持っていた何かが私にぶつかる。
それほどの衝撃ではないのだけれど、ぼんやりしていた私は一瞬バランスを崩してしまった。
「うわっ、すまね!」
走ってきた彼は、私が取り落としそうになったたこ焼きのパックをあわてて持って、申し訳なさそうに私を見た。
私は息を飲む。
それは、私の、学園祭の王子様だったからだ。
彼は去年のあの写真のように、今年もなにやら忙しそうだ。あいかわらずのスキンヘッド。手に持っているのは沢山のゴミ袋。
心なしか、写真よりも大人っぽく凛々しくなっているような気がする。きっと初めて見たら、なんだか怖い人だと思ってしまうかもしれないけれど、ずっと写真で見ていた私は、懐かしい人にやっと会えたような気がして不思議。どんな子なんだろう、本当は結構こわいのかな? それとも優しい子? 女の子に人気あるのかな……なんて、ずっといろんな想像をしていた。
「……おい、どうかした?」
彼は驚いたような不思議そうな顔をして私を見る。
「あっ、ううん、なんでもない」
そう言った私の言葉の後に、不意に彼のお腹が鳴る音が、ものすごいタイミングの良さで聞こえた。
彼は照れくさそうにして、一度地面に置いたゴミ袋をまた手に持とうとする。
「あのっ」
私は声を出した。
「よかったら、これ、食べない? なんだかお腹一杯で食べ切れなくて」
少々冷めたたこ焼きを、私は彼に差し出した。彼はまた驚いたような顔をするけれど、その口元は嬉しそうにほころぶ。
「ええ?マジ?俺、忙しくて今朝からまだ何も食ってなくてさ」
彼は私の差し出したパックから、遠慮がちにたこ焼きを一つ取ってぱくりと一口で食べる。
もっと食べて、と私が差し出すと、彼は美味しそうにぱくぱくと全部食べてしまった。
本当に美味しそうに食べるなあと、私は嬉しくなる。
食べ終わった彼は、はっとまた一瞬照れくさそうな顔をするのだが、ゴミ袋を抱えると、こう言った。
「俺、テニス部であっちの校舎の一階でブース出してんだけど、よかったら後で来いよ。コーヒーくらいおごってやるから」
そう言うと、沢山のゴミ袋を抱えた彼はまた走り出した。
あの写真に写っていた姿のように。
王子様の名前、後で聞きに行かなきゃなーと思いながら、私は彼の後姿をじっと見送った。
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しかし、ジャッカルが攻略対象じゃないなんて!
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